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禅とオートバイ修理技術
(ロバート M.パーシグ、めるくまーる)


禅とオートバイ修理技術この本に関しては、アウトライダーや斎藤純の小説で紹介されたことがあるので、ツーリング好きな人ならば名前くらいは耳にしたことがあるかもしれない。

オビに、

喪失した記憶を奪還するために
過去へ通ずる独自の哲学ロードを
突っ走る

電気ショック療法によって
記憶を奪われてしまった元大学教授(著者)と
本来の父でない父に心を閉ざし
精神の病いに侵されつつある息子の
オートバイの旅

とあるように、内容は、ツーリングを通して、記憶を奪われる前の自分が考えていた思想、特に、<<クオリティ>>と筆者が呼ぶ哲学的概念を解明していくというもの。
その問題意識は、現代の「醜さ」の根本的な原因を求めることにあるのだが、そのための思索の行程は、古代ギリシャ思想にまで遡り、結局、西洋的思考の根幹と対決することになる。
本書には、タイトルにもある通り、禅やらダルマ等の東洋的な概念も出てくるが、それは本筋ではない。<<クオリティ>>が、そのような東洋的なものに似ているだけで、あくまで、探求の対象は西洋的思考になる。

また、それに加えて、テーマは、仕事に対する心構え、孤独、家族...、そして、オートバイと多岐に渡っている。それぞれに興味は尽きないのだが、中でも、本書の最大のおもしろさは、<<クオリティ>>という思想探求のドラマにあるのだと思う。通常、なんらかの思想が説明される場合、それは既に出来上がったひとつの体系として説明される。それが、思想家のどのような問題意識から生まれたのか、またどのような経緯で深められて行ったのか、探求の間にはどのような生活があったのか、というような生々しいところは説明されない。
しかし、本書では、そのような点が、筆者の特異な人生、親子、ツーリング等と絡められて、ドラマチックに綴られている。また、<<クオリティ>>についても、正直、よく分からないところはあるが、その問題意識は極めて現代的で、本書が書かれてから30年以上たっている現在でも、古びている感じはない。オススメの本だと思う。

が、残念なことに、翻訳がよくない。正直、イマイチだと思う。いちいち、あげつらうことはしないが、特に、思想の探求部分がよくない。自分の場合、ここではこういうことが言いたいんだろうなという予想を持った上で、文章を読み、意味が掴めないところは原文に当るという形で読み進めた。
例えば、第四部のプラトン批判のあたりは、ハイデガーの西洋形而上学批判とほぼ同じ構図になっている。ハイデガーの場合は、本質存在(≒形相)と事実存在(≒質料)の分離がプラトンから始まり、これが自然を人間の目的のための単なる材料と見なす反自然的な知の淵源であると批判した。(「 ハイデガーの思想」(木田元、岩波新書))
このように、ある程度、内容を想定しながら読むと、大抵は、納得することができたが、逆に言うと、哲学に不慣れな場合は、翻訳文だけから、意味を読み取るのは難しい気がする。

では、特に、ライダーの観点から見たときは、どのように楽しめるのだろうか。
自分は、かねがね、ツーリングの大きな楽しみのひとつは、様々な場面で感じるリアリティにあると思ってきた。著者の場合は、もう1人の人格が自分の中に居るのではという特殊な境遇のために、人一倍、そのようなリアリティに対して敏感だったのだと思う。それもあるのか、本書には、実際に走った人でないと書けないような細かいが実感のある出来事が随所に散りばめられている。この辺りの感覚は、日米の差はあまりないのかもしれない。ライダーならば、ニヤリとできるところがたくさんある筈だ。
例えば、自分は、以下の文章から、ゴールデンウィークの四国ツーリングを思い出した。

「なぜか山々のひだも独特の重なりを見せているー実にみごとだ。道はくねくねと蛇行し、カーブにかかると右に左に傾斜する。これほど優雅な気分を味わったことがあるだろうか。灌木の柔らかい青葉や、道に覆いかぶさる樹木の枝に触れそうになりながら、バイクは快調に下り続ける。...そしてその向こうから、まだ目に見えぬ海の匂いが微かに漂ってくる・・・」(P.578)

以下の「ネット上の関連情報」は、本書を読むに当って事前に調べたネット上の情報。自身も含めて日本人にとっては馴染みのないアメリカのツーリングに関して、少しでもイメージを持てればと思い、漁った。
また、第一部〜第四部に関しては、思想の探求を中心に、ストーリーに沿って、自分の理解の確認のために、論旨を追った文章になる。 ネタバレになるので、ご注意の程を。

ネット上の関連情報
第一部 〜 古典的な理解とロマン的な理解
第二部 〜 科学は本当に正しいのか
第三部 〜 <<クオリティ>>の探求
第四部 〜 パイドロスと筆者親子の運命

雑記より移行(07/2/28)

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