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人類史のなかの定住革命
(西田正規、講談社学術文庫)


人類史のなかの定住革命人類史の中の定住革命」を始めて知ったのは、「おくのほそ道」で、「日々旅にして旅を栖とす」という漂白の思想を考察しているところで引用されていた。当時、既に絶版になっていて、図書館で借りて読んだのだが、先日、本屋で、講談社学術文庫として再販されているのを見掛けて思わず買ってしまった。

一般的な人類史の理解では、狩猟遊動生活を行っていた人類が農耕技術を開拓し、その結果、定住が可能となり、その後、人類の目覚しい進歩が起きたということになっている。
が、筆者は、これに反して、まづ最初に定住ありきの史観を提示する。では、定住が促進された理由は何か。それは、気候変動により、それまでと同じ採食戦略を続けることができなくなったためという。1万年程前に、世界的に気候が温暖化し、特に、高緯度地方で、その影響は大きかった。その変動を乗り切るために、大量の食料貯蔵や、魚網等の効率的な食料採集のための道具を拡充させた結果、それらのものを運搬することが難しくなり、定住化したという。そして、農耕は、その結果ということになる。定住地域周辺は、自然と、人間にとって有用な植物は保護され、無用な植物は排除されることになる。このような無意識的ともいえる「栽培」の継続とともに、人間の植物に対する知識は自然と拡大して行き、その結果、組織的な農耕が発生したとのことだ。

そうだとすると、現在の人類の一般的な生活形態である定住生活は、その位置付けが正反対なものになってくる 。人類は流浪の遊動生活をやむを得ず続けていたのであって、農耕の発明により、初めて、定住が可能となったのではない。逆で、人類は、やむを得ず、定住生活に入ったのだ。
その結果、定住しているが故に、様々な問題が発生する。例えば、共同体内に不和が発生した場合、遊動生活であれば当事者が村を離れることにより解決される。が、それができない定住生活では、社会的な習慣や制度を複雑化することにより、不和の解消を目指した。また、居住地域の周辺で、死等により何らかの心理的な汚染源が発生した場合、遊動生活であれば移動によりそれは解決される。一方の移動ができない定住生活においては、呪術や儀礼を発達させ、汚染源の除去を行ってきた。
つまり、人類が発明してきた文化的なるものの多くは、定住生活のストレスを解消するための方策と言うこともできるのではないか。現代は、高等霊長類の出現以来、数千万年続いてきた遊動生活から、定住生活への生活形態の移行途上なのである。

というような本書の趣旨を前提にすると、現代の我々が旅に出るということは、先祖帰りをしているということになる。定住生活により引き起こされる日々の鬱陶しいストレスから解放され、習慣や制度とは無縁の遊動生活の自由を味わいたいということだ。
これは、まぁ、誰もが感じる普通の感覚ではあるけれども、人類史的な観点から説明されると、新鮮に感じる。また、他にも、6章に「鳥浜村の四季」というタイトルで縄文時代の生活の描写があるのだが、これも、現代人への示唆は大きいと思う。

なお、本書の各章は、様々な媒体に発表された論文で、似たような記述が多いので、定住革命のエッセンスだけを知りたい人は前半を読めば十分だろう。

新規作成(07/12/19)

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