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相克の森
(熊谷達也、集英社文庫)


相克の森相克の森」は、 冬の北海道旅行に持っていって、飛行機の中や宿で読んだ本。

本書では、ごく平均的な都会人であるライターの美佐子を主人公にして、マタギ猟を通し、現代における人間と自然との関わり方を追求している。
そして、そのテーマは、いみじくも解説で赤坂憲雄がまとめているように、野生の復権にある。

物語の最初の部分で、美佐子は、ある会議で、今の世の中、熊を狩猟で穫る必要はないと発言する。現代の普通の人間が理性で考えれば、通常、そうなるだろう。
ところが、一方の登場人物である現役のマタギ達は、クマ狩りに、いい知れぬ興奮を感じ、また、クマ狩りこそが、村人達を結びつけるものであり、山奥の不便な暮らしを続けさせる自身のアイデンティティーであると感じている。
そして、当初は理性のみで考えていた美佐子も、マタギ達と交流し、そして、実際の猟に参加することにより野生を実感しはじめ、マタギ達の考えに惹かれていくようになる。

北海道の自然は、一度、人間の手が全面的に入った上でのものなので、東北と比べると、自然の種類が違うのだが、そういう環境で読んだことも合わせて、理性だけに基づいた自然保護思想というのが、いかに浅薄なものかが痛感される。自然に近い田舎の事情もあるし、そもそも、人間はいかに生きるべきかという点からも、そう感じた。
理性とメディアによって作られた陳腐な感情だけで生きていくのは、もったいないことだと思う。野生を理性の対局として位置づけるならば、「野性」とでも書いた方がいいかもしれないが、とにかく、そういうものが欠けた人間というのは狭小でつまらない。
自分が、オートバイに乗って、ふらふら、キャンプ旅に出るのも、そういうようなものを求めてというところがある。

ところが、言葉で説明し相手を納得させることが重要な現代では、言語化することが困難な野生というものを維持・拡大していくことは難しい。そもそも、そんなものは、今の社会で成功するためには不要なものだし、また、理性のみに基づき容易に言語化できる自然保護思想には、なかなか勝てないだろう。実際、物語の中でも、マタギの面々の言葉は曖昧だ。

言葉で説明できない野生をいかに復権させるか。
美佐子のように実際の猟に加わることが難しい状況では、物語の重要性が高まっていると思う。そういう意味で、本書は貴重な一冊になる。
また、クマ狩りが地域を結びつける紐帯となっているという文化的側面と、自身のルーツを知ることにより、もっと地に足がついた生き方ができるのではという美佐子の発言は、貨幣が人間を結びつける唯一の要素としての役割を強めている中で、地縁・血縁という都会生活では忘れられつつあるものにも気づかせる。

まぁ、そういう小難しいことは置いも、エンターテイメントとして楽しめました。

新規作成(07/3/20)

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